静まり返った夜明け前の湖のほとり
そよかぜが吹いて……さざなみが立つ
刻々と変わっていく夜明けの風景。
息子がまだ幼かった頃、毎晩、夜眠る前に絵本を読み聞かせていました。彼が好きな絵本の一つが、ユリー・シュルヴィッツの絵本『よあけ』でした。ある湖が夜明けを迎えるまでの光景を、淡くていねいに描いた作品です。
おじいさんと孫が湖のほとりで夜を明かし、翌朝、岸辺からボートを押し出して旅に出ます。
絵本の途中には、おじいさんが孫を起こし、二人が「みずをくんで すこし ひをたく」というシーンがあります。この場面にくると、息子はそのフレーズを憶えていて、一緒に声を合わせて朗読していました。そこには、人がともに生きるときに必要なことが描かれ、それを幼い彼が感じ取っていたのかもしれません。
『よあけ』のなかの「すこし ひをたく」というシーン。
火を焚くときには、水を汲み小枝を見つけ、吹く風をとらえて火の中心をしっかり作り、慌てずに薪をくべるタイミングを見極めます。火を起こすプロセスの中には、ともに温もりという幸せを分かち合うための方法が、散りばめられているのです。火を囲むということは、ともに幸せを囲んでいるということ。
絵本を息子とともに読みながら、温もりという幸せを分かち合っていた時間を懐かしく思います。